研究紹介
基礎研究
私たち臨床薬理学講座では、臨床研究ばかりでなく、臨床上の疑問を解決するためにいくつかの基礎研究を行っています。その一つが血管内皮細胞の機能についての研究です。血管内皮細胞は血管透過性,血管拡張および収縮や血栓形成などの調節機能を有し、内皮機能障害により高血圧、狭心症や心不全など心血管疾患が発症・進展することが示されてきました。そして、この障害された内皮機能を改善する薬物が種々の心血管疾患の治療に有効であることがわかっています。
内皮細胞機能の発現・調節には細胞内カルシウムイオン濃度の変化が関与しています。例えば血管内皮透過性や血管拡張物質である一酸化窒素(NO)、内皮由来過分極因子(EDHF)やプロスタサイクリン(PGI2)などの産生はいずれも細胞内カルシウムイオン濃度の上昇により増加することが知られています。この細胞内カルシウムイオン濃度調節には,ストア調節性カルシウムイオン流入の役割が重要視されています。
私たちは血管内皮細胞におけるストア調節性カルシウムイオン流入の分子生物学的機序を研究し、ストア調節性カルシウムイオン流入においてミオシン軽鎖キナーゼが重要な役割を果たしていることを解明しました。また病態モデルとして「虚血時のpH変化」や「細胞障害後の再生血管内皮」における内皮機能の変化に着目した研究を進めてきました。
現在は「血管内皮の老化」による内皮機能の変化について、ストア調節性カルシウムイオン流入の変化や、その主要な分子生物学的メカニズムである小胞体カルシウムイオンセンサーであるSTIM1やカルシウムイオンチャネルであるOrai1に着目し研究を進めています。これらのメカニズムの解明により、加齢により生じる血管機能障害や動脈硬化性疾患の予防や治療に有用な薬物の開発が可能になるかもしれません。
臨床研究
宿主固有のチトクロームP450活性レベルが、薬物による酵素誘導/阻害の程度に及ぼす影響の検討
薬物代謝を行う代表的酵素のチトクロームP450(CYP)には数多くの種類があり、薬物は1つないしは複数のCYP種の代謝を受ける一方で、1つのCYP種も多くの薬物代謝に関与します。複数の薬物を併用することで薬物代謝反応はさらに複雑化し、CYPを介して薬物同士が影響し合う「薬物相互作用」が生じます。
これまでの研究は「薬物」を軸とし、薬物によるCYP代謝活性の変化が調べられてきました。しかし個人が持つCYP活性はそれぞれが大きく異なり、CYP誘導薬/阻害薬からの影響の受け方にも差があると考えられます。しかし「宿主」を軸としたCYP代謝の研究はこれまでにほとんどなく、詳しいことは分かっていません。
当講座では、個人それぞれのCYP代謝活性の程度と、CYP誘導薬および阻害薬を服用した時に起こる各種CYP分子種の代謝活性の変化との関連について、健康成人ボランティアのご協力を得て臨床試験を行っています。