科長からの挨拶

科長からの挨拶

臨床薬理内科は、薬物治療の有効性と安全性を最大限に高め、個々の患者さんに最新・最良の治療を提供することを目指しています。この目的を実現するために、臨床試験を実践し新たなエビデンスを自ら作っていくこと、患者さん一人ひとりの遺伝的背景や合併症、薬物動態や薬力学の情報に基づき個別化治療を行うこと、を大きな二つの柱として活動しています。また患者さんとの信頼関係を醸成し、コメディカルとの良好なパートナーシップを構築することも大切に考えています。

薬物治療の進歩は、予後不良と考えられた病気をコントロール可能なものへと変化させてきましたが、いくら医療技術が進歩しても、最終的に適切な「くすり」が患者に投与されなければ、最良の治療効果は得られません。医師と患者とのインターフェイスは多くの場合「くすり」であり、この選択がおろそかにされれば十分な治療効果を得られないばかりか、有害作用さえ招きます。外科医は、みずからの医療行為が、出血や場合によっては患者を死に至らしめる可能性を持つ事を自覚しています。一方、内科医は自らの医療行為の危険性に少し鈍感ではないかと感じています。患者の具合が悪くなっても、その原因が処方した薬にある事に気付かずに、さらにその症状に対する薬を追加してしまう事もあるのではないでしょうか。

抗不整脈薬の大規模臨床試験であるCAST (Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)では「心筋梗塞後の心室性不整脈に対して、抗不整脈薬(エンカイニド、フレカイニド)を使用すると死亡率が減少するかどうか」が検証され、当初の予想とは反対に、抗不整脈薬投与群で死亡率が高い事が明らかとなりました。CASTに参加した患者が突然死したとしても、個々の事例でその死因が「くすり」によるものだと特定する事は困難ですが、統計的に見れば試験に参加し死亡した患者の半数以上は、抗不整脈薬投与が原因で死亡しています。

米国では、薬の副作用に起因する死亡が、入院中の死因の4位、低く見積もっても7位に挙がるというショッキングなデータが報告されているのはご存知の通りです。くすりの選択を間違えれば、患者は傷つき、時には死亡さえする事を認識し、外科医がメスを使用する時と同様の慎重さで「くすり」を選択してもらいたい。この事を、臨床薬理内科では先ず学んで欲しいと考えています。

臨床薬理内科は日本では極めて珍しい診療科ですが、海外では多くの大学病院に設置される臨床科目です。浜松医科大学臨床薬理内科の活動の一端は、医学界新聞の記事新しいウインドウで開きますからもご覧いただけます。若い時代に、一度は学んでいただきたい分野だと信じています。

渡邉裕司